顔をじっと




びかけたのは悠人だった。ダークグレーのビジネススーツに身を包み、涼風には見せたことのない優しい微笑を浮かべている。澪は短いプリーツスカートをひらめかせて振り返り、師匠! と屈託のない笑顔で心から嬉しそうに声を弾ませた。一方、遥は無表情を崩すことなく少しだけ振り向いている。
「駐車場で待っててって言ったはずだよ」
「すみません、涼風さんを見かけたものですから」
 澪は肩をすくめながら後ろの涼風を示した。それを受けて、涼風はとっておきの笑顔で挨拶をする。
「お久しぶりです、悠人さん」
「お仕事ですか?」
「ええ、ご紹介どうもありがとうございました。おかげで近いうちにまとまりそうです。正式に契約を交わすことができましたら、前回の依頼の件も含めまして、あらためて橘家の方へ御礼に伺いたいと思います」
 涼風は滑らかにそう言い、丁寧に一礼して正門の方へ足を進めようとしたが、お待ちくださいと悠人に呼び止められて振り返った。感情の読めないその見つめながら、小首を傾げる。
「よろしければ車でお送りします」
「……それではお言葉に甘えて」
 どうしてこんな申し出をしてくれたのか少し不思議に思ったが、おそらくただの親切心だろう。深い意味はないはずだ。期待しそうになる自分にそう言い聞かせながら、あえて営業的な笑顔を取り繕って返事をする。それでも、無意識に浮き立つ心までは抑えようがなかった。

 駐車場には、悠人の黒い中型セダンがとまっていた。
 彼に促されて涼風がその助手席に座ることになり、澪と遥は後部座席に座る

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